ソシキ

2008年の15冊目。組織がどうこうという文脈に出会うと、村上春樹が「うずまき猫のみつけかた―村上朝日堂ジャーナル」収録のエッセイで、

「個人と組織が喧嘩をしたら、まず間違いなく組織のほうが勝つ」

と書いていたことを思い出します。会社だけでなく、この社会というやつには数多くの組織があって、なかなか強力な存在です。そして、どんなに大人数が苦手でも、なんらかの組織に頼らずに生きていくのは難しい。ソリが合っても合わなくても、うまくつきあう方法を体得していかねばなりません。

すぐれた組織の意思決定―組織をいかす戦略と政策 (中公文庫)
すぐれた組織の意思決定―組織をいかす戦略と政策 (中公文庫)印南 一路

中央公論新社 2003-05-23
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star人の認知限界を超える執念深い事典並論述が続く。組織の意思決定論は常に動的観察必要。
star意思決定
starこれが意思決定か!

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この本の目的は

  • 組織の意思決定とは何か?
  • すぐれた組織の意思決定をするためには、どうするのか?

の2つを明らかにすること。

組織とは

多数人が協働すれば、個人ではできないことができることになる。逆にいうと、それは組織が達成しようとしている仕事、すなわち事業は、一個人の能力を超えた複雑さと大きさをもっているということである。そのため分業体制が組織づくりの最初の課題となる。つまり、組織が達成しようとしている課題を、個人ができる程度の小さな課題に分割し、個々人に「なすべき仕事」、すなわち職務として分担させる必要がある。

個人や少人数の集まりでできることはどうしても限りがあります。その制限を取っ払うのが、体制の整った「組織」*1

組織で働く個人は、ある意味で組織を「本人」とする「代理人」である。経済学の代理理論(agency theory)を待つまでもなく、代理人の利益と本人の利益とは完全には一致しない。したがって、機会主義的行動*2が生じてくることになる。

逆に、働く個人を「本人」として見ると、会社(組織)は、自分の代わりにモデル(たとえばビジネスモデル=お金を儲けるための仕組み)を構築してくれる代理人である、とも言えますね。ビジネスを通して社会に関わっていきたいという欲があっても、大多数の人は利益を確保するための仕組みを考え出すスキルが不十分です。そのスキルを磨かずとも、自分が得意な領域で力を発揮すれば、組織の中で生きていけます。

組織の意思決定とは

  • 分業・専門家により、意思決定が定型化
  • コミュニケーション・プロセスも定型化

これにより、意思決定がスピードアップ、行動の予測可能性・可視性が高まり調整がしやすくなる、個々人の範囲を限定・単純かするので、教育がしやすくなる、マニュアル・文化を蓄積できる・・・といった効率化により、新しい問題が生じたときにそちらの対応にコストを割くことができます。マニュアル化しすぎちゃうと、それ自体から問題が生じそうな気もしますが、すべてが同時にトラブることは稀なので、全体的に考えれば良い結果になるのでしょう。

組織の意思決定は、個人レベルの意思決定としてのみ、また抽象的な組織レベルの意思決定としてのみ捉えるのでは不十分であり、組織内で個人や小集団の意思決定が合成されて組織の意思決定になるプロセスに注目する必要がある。

・・・だそうです。ミクロの集積がマクロになるという考え方ですね。

組織にコンフリクトは不可避

すぐれた意思決定をするためにはどうするのか?の1つとして、コンフリクトへの言及がありました。conflict: 衝突。あまり良い響きではありませんが、まあ、ひとりで生きてても葛藤があるのだから、他者といれば衝突は不可避でしょう。

すべてのコンフリクトが、組織変革に関わるわけではなく、またすべての組織変革がコンフリクトを生み出すわけでもない。しかし、組織変革は、場合によっては大きなコンフリクトを生み出す。したがって、組織変革を行うために、強制的な色彩を含んだパワー行使という側面が出てくることになる。

パワーは相手の意に反して何かをさせたり、させなかったりする能力であると定義される。

「組織における22のパワー戦術」というものがありました。自分解説をつけながら羅列。

  • アジェンダ・コントロール:前もって論点を決めておく
  • あいまいさの利用:あえてぼかして言う
  • 瀬戸際制作:「○○してくれなきゃ帰る!」
  • カリスマ利用:「○○がエコって言うならエコがいいんだよね」
  • 同盟形成:利害が一致する人同士で結託
  • 反対派の味方への引き入れ
  • 意思決定前提のコントロール:事前にフォーマットを決めてしまう
  • 外部の専門家の利用:いわゆる「コンサル」はこのために存在するわけですね
  • 好ましいイメージ形成
  • 正当化コントロール:「昨年部長がなさったときは・・・」
  • 恩義の背負い込み
  • 組織的配置:戦略的に同盟を張り巡らす
  • プロアクティビティ
  • 報償・しっぺ返し:「手伝うから、今度私がするときは手伝ってね」(と暗黙のプレッシャーをかけるの術)
  • 合理化
  • 資源配分
  • 報償施与
  • 儀式主義
  • 代理の利用
  • シンボルの利用:目標・アイデアを通してコントロールする
  • 能力開発と訓練
  • 訓練と方向付け:他社にスキル・価値を伝達する

よくわからないものもありますが、全部をうまく活用できたら、交渉のプロになれそうですね。*3

*1:この本での組織の定義は「共通の目的を持った人々の、意識的な分業と調整の仕組み」

*2:組織の利益を犠牲にして、自己の欲望を実現しようとする行動

*3:ネゴシエイター勇午!