日々を磨く

ロシアに学ぶ週末術―ダーチャのある暮らしロシアに学ぶ週末術―ダーチャのある暮らし
豊田 菜穂子

WAVE出版 2005-04
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ダーチャとは、ロシア語で「別荘」の意。乙女ちっくな表紙写真と

そこは、ロシア人にとって特別な思い入れのある"地上の楽園"なのだという。
木漏れ日の射す白樺林や、見渡す限りのみどりの草原。まばゆいばかりの陽光を浴びて、北国の花木がいっせいに芽吹く頃、人々は心を躍らせて楽園に集う。(中略)
女たちは台所でピクルスをつくり、男たちは薪を割ってバーベキューしたくをする。子供たちは水浴びをしてはしゃぎ、おじいちゃんたちは陽だまりでチェスに興じる。

・・・のような世界を期待してパラパラと立ち読みしたらば、

「そうねぇ、確かに見た目はすてき。でもダーチャが楽しいのは子供だけ。大人にとってはウージャス!(最低) カシュマル!(最悪)」
ダーチャのことを知りたいと思って、知人のロシア人女性に水を向けたところ、意に反して猛烈なダーチャ批判が炸裂してしまった。
「まず第一に水がない、ガスがない、電気がない。どうするの!? 第二に車がなくちゃ何もできない! 第三に行ったら行ったで朝から晩まで働きづめ! 都会で働いてまた働いて、これじゃまるで奴隷でしょっ!」

という記述が(笑いの)ツボに入り、そのままお会計してしまいました。

期待通り、田舎暮らしに対する夢見がちな憧れだけでは終わりません。童話的な世界を思い描く記述がありつつも、批判的な意見もあり、客観的なデータもあり、実際のダーチャ取材もありで、乙女ながらも真摯なジャーナリズムが感ぜられました。2時間あれば読める分量ですが、豊かなひとときを過ごせます。

本を読んで「いいないいな」だけでなく、自分もやってみようと思う人向けに、日本でのダーチャ的実例も出てきます。
その中の一人の廣瀬さんは「実家をセカンドハウスにしよう!」という発想で『畑でとれた野菜をビン詰めに。木を切り薪を割り、暖炉にくべる。味噌蔵を建て、オリジナル味噌をつくる。さらには石を組んで石窯をつくり、パンやピザまで焼いてしまう。』それを見た著者が、

そういえばイーゴリ廣瀬氏は都会に住んでいたときも、粗大ゴミを拾っては家具や照明をこしらえてしまう人だった。「つくる人」はどこにいてもつくる。「つくらない人」はどこにいてもつくらない……。

とつぶやきを書いています。その後に、さらに廣瀬さんの言葉。

「自分が"ほしい"と思う。だから自分でつくる。"つくる"動機はもともとシンプル。でも今の日本人は"つくり方"を忘れてしまっている。それは"面白いこと"を手放していること。損をしてると思うんです。」

このくだりを読んで、私は「自分の仕事をつくる」を思い出しました。


西村 佳哲
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この世界は1人1人の小さな「仕事」の累積なのだから、世界が変わる方法はどこか余所にではなく、じつは1人1人の手元にある。多くの人が「自分」を疎外して働いた結果、それを手にした人をも疎外する社会が出来上がるわけだが、同じ構造で逆の成果を生み出すこともできる。

いわゆる事務職とか、ホワイトカラーとかの「知的レベルの高い仕事」仕事についている人ほど、"つくる"行為からは遠いところにいます。むしろ、"つく"ろうとすると咎められる。金にならないからやめろと言われる。でも、昼間の仕事で"つくる"ことが求められなくても、身の回りの"つくる"を排他することはありません。昼間の「仕事」とは別の「私事」として"つく"ればいい。今は、あまりに何もかもがお金で買えてしまう。だけど、すべてをお金で解決するには、人生はちょっと長すぎます。

別に難しいことじゃなくて、料理をするとか、お菓子作りをするとか、ボタン付けをするとか、自分の手で手紙を書いてみるとか、そういうちょっとしたこと。昔は自分の手でやるのが当たり前だったことを、もう一度、取り戻してみても面白いかもしれません。そういうことに思いを馳せるきっかけになる1冊です。

メモ

京都の恵文社にて購入。2008年の16冊目。レビューしてない読了本が溜まりすぎ。どうしよう。