著作権探訪記

学会にいってきました

先月の5月24日、著作権法学会の年会に紛れ込んできました。
http://www2.odn.ne.jp/~aaf77690/activity/20080524.html
フェアユースとフェアディーリングの違い*1も知らなかった初心者でしたが、身近なテーマなので、興味深く各先生方の発表を聞きました。終了間際に、知的財産権研究会 会長の中山信弘氏が日本版フェア・ユースについて熱く語っている様子を見れたのも良かったです。きちんと録音していないので、大雑把なメモと記憶をたどりながらの記述ですが、こんなことを言ってました。

フェア・ユースは、条文に入れます。
ベンチャー・ビジネスの保護のためです。今までは、法律で大枠を決めておいて、問題があれば時間をかけて解決していけば良いといっていました。しかし、ベンチャー・ビジネスにとって、時間がかかることは命取りです。だから、ベンチャーの保護・・・とまでは行かないまでも、彼らのビジネスを潰さないために、立法リスクをとってでも、時間的リスクを減らします。

別の日に行われた知的財産研究会のシンポジウムでも語っていたそうです。池田信夫さんのブログがよくまとまっています。

資源のない日本では、人々の知恵を最大限に活用して生きるしかない。それなのに、検索エンジンも動画サイトも、中国や韓国にさえ抜かれている。日本人に技術力がないわけではないのに、法律がイノベーションを阻害している。私たちが子孫に残せるのは、せめてこういうひどい制度を手直しして、彼らが新しいビジネスに挑戦できる社会にすることだ。

中山信弘氏の情熱 - 池田信夫 blog(旧館)

本を読みました

「学術論文のための著作権Q&A」という本を読みました。Q&A形式で読みやすいし、「こういうことあるある!」という事例がたくさん載っています。学術関係者は必読デスヨ。

学術論文のための著作権Q&A 新訂2版―著作権法に則った「論文作法」学術論文のための著作権Q&A 新訂2版―著作権法に則った「論文作法」
宮田 昇

東海大学出版会 2008-03
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たとえば「翻訳権と翻訳者の権利」の章で、こんなQがありました。

Q. 12-3
ウエッブサイトでは、無許諾で翻訳して利用できるものがあると聞いた。ウエッブサイトでの翻訳権については、どのようなことに注意すべきか。

これについての答えは、翻訳は自由であると明記していても「それはサイト上のことで、翻訳して出版する場合は別と考えた方が安全」というもの(本ではもっと突っ込んで解説しています)。ウェブ上のことはグレーゾーンが多くて難しいですが、個人的にはせっかく翻訳したなら原著作者に一声かけたほうがお互い嬉しい気分になれるし、トラブルも防げるよね・・・と思います。


他に、こんな本も読みました。

カーマーカー特許とソフトウェア―数学は特許になるか (中公新書)カーマーカー特許とソフトウェア―数学は特許になるか (中公新書)
今野 浩

中央公論社 1995-12
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数学というか、数学アルゴリズムは特許になるか。ある線形計画法のアルゴリズムを実装したソフトウェアを保護するため、特許という手段に訴えたカーマーカー博士とAT&T社。この「カーマーカー特許」にスポットライトを当て、その顛末と、アルゴリズム特許にまつわる議論を描いています。著者は「カーマーカー特許」のテーマである線形計画法の、日本人研究者。少し古い本(1995年刊)ですが、著作権やソフトウェア周りの権利について興味がある人にはオススメできます。

*1:フェアユースはアメリカの、フェアディーリングはイギリスの、著作権法上の概念。2つの定義は微妙に異なりますが、ざっくり説明すると、批評、ニュース報道、教育・研究などの用途に限って、他人の著作物の使用を、著作者の許諾なしに認めるもの。米「フェアユース」定義では、次の4つの要件を考慮べきと考えられています。1.使用の目的・性質。商業性を有するか、それとも非営利的教育目的か。2.利用される著作物の性質。フィクションか否か。3.利用される部分の量と、実質。利用される著作全体との関連。4.利用される著作物の潜在的市場・価値に与える影響。