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「ちゃんと生きる」の3要素

life

「数理科学」2008年7月号にある「数学の道しるべ〜研究者の道とは何か〜」第2回(黒川信重先生)がおもしろかった.

3. 数学研究の三段階
数学研究については,一般の人に知られていないだけでなく専門家にも誤解が生じている.(中略)数学研究は,普段はあまり強調されないが,
(1) 問題設定.
(2) 問題解決.
(3) 論文発表.
という三段階からなっている.これだけでも知っているのといないのとでは,全く違う.実際,大学で数学研究をしていると言っている人たちでも,このことを知らない人が大多数であることは,日々,実感している.「問題が作れない」「論文が出版できない」という話は毎日のように耳にする.それは,数学研究をしていないのである.それでも数学研究をやっていると思いこんでいるのは,多分,上記の三段階のうちの(2)「問題解決」(計算実行)の周辺だけで数学研究をやっていると思っているせいに違いない.

数学は人生とよく似ている.本屋さんに行ってビジネス書のコーナーに行くと,問題解決の本が山盛りに積んであるけど,それだけじゃ何も「解決」しない.与えられた問題を解くだけじゃ,ちょっと物足りない.ひとりで「解決」してるだけじゃ,ちょっと寂しい.誰かに解決方法や結果を伝ることで,自分の勘違いに気がついたり,問題の発展が生まれたりする.

優しい人は「相談があったら何でも言ってね」と言ってくれる.ただ残念なことに,相談できる=問題を言葉で説明できるようになるころには,だいたいの物事は「解決」してる.でも「解決」後に人と会っていろいろ話すと,楽しいし,まだ問題が解決しきっていないことに気づかされたりする.むしろ問題に取り組んでいる最中よりも解決したつもりになっているときのほうが,得ることのほうが多い.つまり,人生にとっての「論文発表」は,人とのコミュニケーションなのだ.


七夕の日,三上さんのブログを読んだ.

現実を変えたいと思ったら、少なくとも自分の理想を明確に語れなければならない。そしてその語りが相手を説得し、相手を変える必要がある。現実はある面で人間関係、コミュニケーションの総体であるから、少なくともその関係、コミュニケーションの質を変えない限り、現実は動かない。理想によって現実を動かすことは、関係、コミュニケーションに一種の革命を起こすことである。そのとき一番深い変化は実は自分の中で起こっている。現実がいい方向へ動いているときには、自分が深いところで変化しているのだ。

現実を変えたいと思ったら - 三上のブログ

はじめ読んだとき,「何かを変えたかったら,自分から変われ.っていうことでしょう?」と,すっかりわかっているつもりでいた.なのに,何故かこのエントリーの言葉ひとつひとつが胸に引っかかって,何度も読み返した.

ところで,私は,ちょっとしたことで,すぐにあきらめる.あきらめるというか,「他人に期待しても無駄だ.自分でどうにかするしかないんだな」って,諦観を持つようになる.この思考回路にも,メリットはある.自分が動いて解決できそうなことなら,進んで動く.それに,自分以外の人に対して期待を持っていないぶん,誰かが何かをしてくれると,とっても嬉しい.でも,期待を持てないから,言葉にすることが面倒になって,何も言わずに自分1人で済ませてしまうことが多くなる.コミュニケーションが面倒になってしまう.最近,ちょっとごたごたしている案件について,先輩に「あきらめちゃだめ!」と言われて,こういう自分の思考のクセに気づいた.


三上さんのいう「自分が深いところで変化しているのだ」というのは,自分1人だけを変えることじゃない.周りにいる人たちを変えるために自分が変わることと,自分1人だけのために自分を変えることは,違うこと.・・・ですよね?>id:elmikamino


ひとりで計算してるだけでは数学研究してるとは言えない.それと同じで,ひとりで問題解決してるだけじゃ,ちゃんと人生やってるとは言えない.1, 2, 3全部できて,ナンボの世界.だから,私はブログを書いたり,ピアノを弾いたり,人と会ったりするのだ.

黒川先生のエッセイで紹介していた本

オイラー探検-無限大の滝と12連峰 (シュプリンガー数学リーディングス 第 11巻)オイラー探検-無限大の滝と12連峰 (シュプリンガー数学リーディングス 第 11巻)
黒川 信重

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