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中国の科学研究 はどうなっている? 日本はそれにどう向き合っていく?

「科学技術大国」中国の真実 (講談社現代新書)
伊佐 進一
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中国の科学政策・研究現場の強みと弱み。それに日本の科学界がどうつきあうべきか。恐れてばかりいるのではなく、日本は中国とお互い弱い部分を補完しあい、よきパートナーになれる可能性があると著者は主張する。

著者・伊佐進一氏は東大工学部を出て科学技術庁に入った後、ジョンズ・ホプキンス大大学院で中国研究をした後に自ら希望して中国大使館に3年間駐在した中国通。今は文科省で働くいわゆる官僚、官僚のなかにもこういう人がいるのだなと思いつつ読んだ。理論上の研究をした後に現場を見た方だけあって、臨場感に富んだ筆致で書かれている。現地での面白いエピソードもそこかしこに散りばめられていた。

「日中の協カプロジェクトを、より拡大していきましょう」という中国人に対して、何度、「日本はお金がないから……」と言ったかわからない。「政府が決断すれば、お金なんて後からついてくるものですよ」という中国の論理を、堂々と外国人の私に展開する。そうした政治体制はともかく、彼らの資金まわりに余裕があるのは間違いがない。余裕があればこそ、より大胆に、より積極的に協力を進めようとする。日本人にとってみれば、これまでも「勢いだけ」で事を運ぼうとしていた中国人が、さらにやみくもに日本との協力を進めようとしているように映ってしまう。
日本のこれまでの予算制度においては、何か新しいことを始めるためには、古い事業を廃止する、スクラップ・アンド・ビルドが基本的な方針であった。新たな協力を始めようと思えば、その国との他の協力を終わらせることが求められた。これは、中国人に言わせれば、「東の壁を壊して西の壁を直す」という行為であり、協力の進展ではない。日本の現在のような厳しい財政状況、経済状況においては、新たな支出が必要な事業については、精査に精査が重ねられる。「お金がない」という発言を連発し、これまで以上に長期間にわたって精査を続ける羽目に陥った日本人の態度を見て、中国人は、「日本は協力の意思がまったくない」と判断する場面が多くなった。

この「東の壁を壊して西の壁を直す」という表現は言い得て妙なのだが無い袖は振れないというのも事実なわけで・・・と日本人である自分は思うのだが、しかしこういう発言が出てくるらへんに彼我の状況の違いを見ることができる。

日本にいると「中国の研究は数が多いが質が伴わない」という意見もよく聞く。しかし日本も始めから質が良かったわけではなく、ある程度土台があったとはいえ明治維新以後(?)の必死のキャッチアップにより今の地位があるわけで、「数が多いが・・・」で評価を止めるのは性急すぎる。また玉石混淆であっても、母数が大きいので玉の数も自然と多くなる点は見逃してはならないと思う。さらに科学研究にお金がかかるのは事実で、どの先進国も研究予算捻出に必死ななか、経済成長を背景に(上に抜き出したところからもわかるように)気前良く投資している中国は貴重な存在だ。日本はせっかく地理的に近しいところにいるのだから、それを活用しない手はないと自分も思うのだが・・・。

科学研究に興味がある人に是非読んでほしい1冊。