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なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?

11月は以下3冊を読んだ。特に「なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?」は考えさせられる箇所が非常に多かった。

影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか
ロバート・B・チャルディーニ 社会行動研究会

誠信書房 2007-09-14
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社会心理学の古典。「なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?」でも引用されていた。無意識の習慣、返報性、一貫性、etc.の人の心理的習慣を利用し、人を動かすテクニックとそれに対する対処法を例示している。学問的な筆致だが、どうすれば相手を動かすことができるかというコツを学ぶ本として、またセールスや宗教の勧誘を受けるときどう対処すればよいかというハウツー本として読むこともできる。


なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?
フィリップ・デルヴス・ブロートン 岩瀬大輔

プレジデント社 2013-08-30
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ハーバードビジネススクールの卒業生でありジャーナリストである著者が伝説的ともいえる成績を誇るセールスパーソンたちを対象にインタビューを行い、何がセールスの成功の秘訣かを探る本。分野・業種を問わず様々な人たちに話を聞いているし、ただモノを売るだけが「セールス」ではないという前提なので、深みがあり面白い。仕事で若干営業ぽいことを始めたのもあり、考えさせられる箇所が非常に多かった。



運を育てる―肝心なのは負けたあと (ノン・ポシェット)運を育てる―肝心なのは負けたあと (ノン・ポシェット)
米長 邦雄

祥伝社 1999-02
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「本番に強くなる」で取り上げていて興味を持った。10年以上前に出た本だが、Kindle版で再販している。仕事がうまくいかない…と思ったときに再読したい。印象に残った箇所:「惜福」ー源義経と司馬仲達のはなし。「死せる孔明、生ける仲達を走らす」ではないのではないかー最後に笑うのは誰か?という発想。


以下、「なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?」の抜き書き。


序章 世界を動かしているのはセールスだ!

セールスマンでない人だって、毎日のように、自分自身に、自分の家族に、友だちに、社員に、何かを売り込んでいる。毎朝子どもに学校で先生の言うことを聞きなさいと売り込む。自分に本を書けと売り込む。学校や会社に入れてくれと売り込む。恋人になってほしいと売り込む。ウェイターは本日のスペシャルを売り込み、医者は薬を売り込む。人間ならば、誰しも何かを売っているーそれがセールスだ。

これくらい広い意味であれば、誰しもがセールス活動をしている。働いている人なら「セールス」と肩書きがついていなくてもセールスをしている。

何かを売ろうとすれば、いやでも本当の自分と付き合うことになる。お金のためにどこまでならできるのか? 背景も目的も違う人たちを相手に、自分をどう見せるのか? 友だちづきあいと仕事上の関係をどこで線引きするか? こうした問いに正解はない。ただ、その問いにどう答えるかで、自分が何者であるかが決まり、成功できるかどうかが決まるのだ。


第1章 失敗と拒絶を受け入れる

マジードは、打たれ強さを「ゆったりとした上着」にたとえる。打たれ強さはセールスマンだけでなく、人生での成功を望む人すべてに必要な資質でもある。それは、逆境で心の平穏を保つ能力だ。ラドヤード・キップリングは『もし』という詩のなかで、それを「勝利も敗北も等しく受け止めて、惑わされない力」を呼んでいる。


第2章 ストーリーと共感力で売り込む

優秀なセールスマンは、どんなストーリーが相手の心に訴えるかを敏感に察する。その人にとってのヒーローストーリーはどんな話だろう? この買物で、何を得たいのだろう? 誰に認めてほしい? 理想の人間像とは? 部下のセールスマンを鼓舞する立場にある管理職もまた、同じことを問いかける必要がある。部下は仕事から何を得たいのか? どうしたら彼らのヒーロー願望を実現させられるだろう?


第3章 生まれつきか、経験か
この章ではセールスに関する研究と、著者が実際にインタビューをしたセールスパーソンたちの紹介で構成されている。日本人の生保レディも出てくる。
1985年、ギルバート・チャーチル、ニール・フォード、スティーブン・ハートリー、オーヴィル・ウォーカー4人によるセールスについての論文から

どの研究にも共通する最大の成功要因は、役割認識だった。セールスマンが自己の行為をどう受け止めているかが、売り上げにもっとも大きく影響していた。自分の行動とその理由を理解し、どんな見返りがあるか、また誰をよろこばせればいいかをはっきり認識しているセールスマンは成功していた。仕事に対してあいまいな気持ちや葛藤が大きいひとほど、成績はふるわなかった。自分を見失ったり目的がないと感じたりしている場合も売上はあがっていなかった。営業という行為自体、人間が行う多くの行為の例に漏れず、さまざまな内面の葛藤や倫理の矛盾を生むことに鳴りやすい。わかりやすく指導せずにセールスマンにこうした問題を押し付けたままにしておけば、失敗することは目に見えている。会社や上司がこうした指導をしてくれないなら、セールスマンは自分でなんとかするしかない。セールスマンとして成功したければ、自分の行動とその理由を理解し、自分にどこまでの心構えがあるかを知ることがもっとも大切なのだ。

1961年、ロバート・マクマリー「スーパーセールスマンの秘密」ハーバード・ビジネス・レビュー から

優秀なセールスマンはかならず三つのことを行っている。最初に、見込み客の感情や夢を素早く見抜き、夢をかなえる商品に相手を引きつけること。次に、その商品が必要でもなくそれを買う余裕もない相手に、合理的な理由を与えること。最後に、プレッシャーを与えて制約に持ち込み、お金を支払わせること。この三段階には、それぞれまったく違う才能が必要になる。

1964年、デイビッド・メイヤー、ハーバート・グリーンバーグ

優秀なセールスマンは二つの資質を兼ね備えている。それは「共感力」と「自我」である。すなわち、顧客に耳を傾けてその頭の中を理解する共感力と、制約にこぎつける自我の強さが必要だ


第4章 教祖と信者
行くところまで行くと、セールスは宗教じみてくる。「信者」が集まるアップルストア、アムウェイやメアリーケイなど数多の訪問販売企業などの実例と、関連する研究や出版物の紹介、さらにデールカーネギーのようなセールスにおけるバイブル的な存在である人々=教祖を取り上げてその理由と魅力、何をセールスに生かすことができるかを考察する章。

  • ブルース・バートン「誰も知らない男 なぜイエスは世界一有名になったか」
  • ロバート・チャルダーニ「影響力の武器」

自分一人でつねに集団の全員を説得できるリーダーはいない。だが、押しの強いリーダーなら集団のなかのかなりの人数を説得することはできるだろう。そして、相当な人数が信じているという事実が残りの人たちを納得させる。したがって、社会的なお墨付きが自分にいちばん有利に働くように集団の環境を作り上げられる人間が、もっとも影響力のあるリーダーなのである


ワシントン・キャピタルズのオーナーだったテッド・レオンシスのエピソードや彼のコメントはどれも面白かった。

朝起きて、「そうだ、広告を出そう」なんて思う人間はいない。「みんなに知らせたいことがある。どうしたらいいだろう?」と思うだけだ。フランクリンは酒飲みの義弟を雇ってフィラデルフィア中を回らせ、知らせたいことはないかと聞いてみた.告知広告はそうやって拡大していった

昔、同僚とクライアントを訪ねると、君たちはお払い箱だ、もう料金は払えないと言われた。(中略)同僚はどうしようと真っ青になって辞めると言い始めた。建物の外に突っ立っていると、向かいに森が見えた。風が吹いていて、木々が色を変えていた。同僚が、「なんでお前はびくびくしてないんだ?」と聞くので、こう行った。最悪どうなるっていうんだ? クライアントを一つ失くすだけじゃないか? かみさんは俺のことを愛してくれているし、木だって美しい。顧客リストを洗い直して、30日以内になくしたクライアントの倍くらい払ってくれそうな新しいクライアントを捜そう。

セールスマンとして成功するには、エゴから距離を置く能力が必要になるという考え方だ。第1章に登場した土産物賞のマジードは、一見自分を軽んじるような客の振る舞いに邪魔されず取引をまとめる、いわゆる「ゆったりした上着」方式で、これを実践している。だが、恐怖に支配されたセールスマンは、勝手な思い込みによる自分の欠点とそれに対する相手の反応を間違った方向に気にしすぎてしまう。そうして、みずからが取引の妨げになる。

落ち込んでいる友だちに、ものごとの明るい面に目をむけて、幸運を自覚しようと言うのは簡単だが、なかんかあ自分ではそうできない。シュルマンは、自己否定にはまり込む前に、気持ちを別の方向に切り替える儀式を紹介している。手首にゴムのバンドを巻く。気持ちの負担になっている事柄を書き留める。100から7つずつ弾きながら数を数える。そして、成功したときのことを思い出してみる。


(前略)デール・カーネギーの研修に参加するのは教会に行ったり、精神修行を行ったりするのと変わらないことに気がついた。新しいことを学びに行くのではない。日々の生活のなかで忘れがちなことを繰り返し、再認識し、改めて心に刻むためにそこに行くのだ。常識を行動に帰るために参加するのである。拒絶と嘘、約束しても心変わりをする顧客、目標やノルマ、自分たちをバカにしながらも売り上げのために頼らざるを得ない経営陣、終わりのない出張の寂しさ。それらに打ちのめされるセールスマンは、微笑むこと、いつも気分を上向けること、そして「ゆったりとした上着」をまとうことを、繰り返し思い出す必要があるのだ。


第5章 誰にでもチャンスはある
習慣と自制心へのこだわりを活用する人たちのエピソード。「よい思考と行動を繰り返すことで、優れた習慣が身に付く」ことを信じて、自分にポジティブな魔法をかける。そのためには自制心が欠かせない。 モチベーションは湧いてくるものではなく、自分で育てるもの。

成功の秘密を訊かれたウォーカーは、勤勉さ以外にないと言った。「花びらの敷き詰められた成功への道などありません」

モチベーションとは、自分の置かれた環境を俯瞰しそれを支配することによって、できるだけ多くの見返りを得ようとする欲求だと言われる。つまり、周囲の世界がどう機能するかを知り、それを自分に有利になるよう操作しようとすることだ。それは、能力テストで発見できる類いの欲求ではない。だが、その欲求の強さ、すなわちモチベーションの高さが、粘り強さ、忍耐力、楽観性といった、人生につきものの敗北を乗り越える心の働きを育てる。メモは早朝ジョギングの日課を儀式のように欠かさない。ほんの少しでも自制心を失えば破滅につながると思っているようだ。彼のモチベーションは間違いなう恐れよりも強固だが、いつ消えてなくなってもおかしくないという危機感を持っているため、それを大切に育てることを人生の中心に置いている。


第6章 芸術作品を売るということ
値段があってないような芸術作品に、経済的な価値を与えるスペシャリストとしてのセールスマンたちのはなし。


第7章 仕事と自我を切り離す

3Mのセールスマンの一人が、彼に成功の秘訣を訊いた。「たくさん電話すれば、それだけ会ってもらえるし、売り上げもあがると教えた。セールスの研修で教えられたことだ。だが奴らは信じていなかった。別のセールスマンが「青い目が秘訣だろ」と言ったから、おレは振り向いて「そんなわけないだろ。必死で仕事してるからだよ。それが秘訣だ」と答えた。秘訣はいつも同じことだ。必死に働け。」

「ほとんどの人はマニュアルをほしがる。いちばん簡単なマニュアルは売り込みの言葉だ。教会に求めるのも、同じものだ。人は人生のよりどころとなる言葉を牧師に求める。どんな場所でも役に立ち、願いをかなえてくれる言葉、要するに天国に行けることを約束してくれるような言葉を求めるものだ。モブリーはよくこう言っていた。人間は18歳まで、他人と同じになるために学ぶ。だが、それ以降は、他人と違う人間、自分らしい人間になることを学ばなければいけないと。そしてほんとうに自分らしくあるためには、衝撃的な体験が必要だ。上に立つ人間や優秀なセールスマンは、違いをありがたく受け入れる能力がある。ことわざでも、予断は禁物というだろう。この客は買いそうだとか、あの客は買わないとか決めつけるべきじゃない。いつも心を開いておくことが大切なんだ」

筆者の結婚準備のための買物エピソードも面白い。指輪屋では良いひとに会えず嫌な経験をするが、スーツを買いに入った店では丁度良いサービスを提供され、それ以後同ブランドのファンになっている。

心理操作のテクニック面なら、簡単に学べるとシェンカーは強調する。成約の技術は15分で教えられると。難しいのは顧客との人間関係を築くことだ。僕が結婚式のスーツを買ったとき、接客の男性は僕のほしいものを確認すると、試着したスーツのどこがそれぞれ気に入ったかを僕に尋ねた。気に入ったところを全部あげたら、もうほかに言うことがなくなった。気に入らないところをあげる必要もなかった。僕はほしかったものを見つけていた。彼は、僕にそれを自覚させてくれたのだ。その経験ができたのは、彼がはじめに信頼関係を築いてくれたからで、策を弄して手っ取り早く買わせようとしたからではなかった。

「最高のセールスマンは人が好き」は他のところでも耳にしたことがある文句だが、初対面の相手をきちんと見つめ、適切なコミュニケーションを展開するのは並大抵のことではないと思う。そうでなければ、お店で気持ちのよいセールスマンに出会う可能性の低さを説明できない。何故それが難しいといえば「顧客のことを深く気にかける」ことは自我=自分のことを大切に思う心をコントロールすることだからだ。それは個性や人格を排除することではなく、相手に拒絶されたり否定されたりすることを恐れず、「自分を抑えて一歩引き、顧客の行動をじっと観察してから動く」こと。


第8章 複合的な才能
映画「アラビアのロレンス

上を目指すセールスマンなら絶対にこの映画を見るべきだとアンダーソンは言う。なぜなら、この映画はセールスの課程を絶望や拒絶や欺瞞として描かず、より大きな目的を達成するための芸術であり、技術であり、創意工夫として描いているからだ。(中略)「顧客を相手にテニスの試合をしても、いいことはない。勝てば顧客に嫌われる。負ければ軽蔑される。それなら顧客とくんでダブルスの試合をしたほうがいい」とアンダーソンは言う。

セールスフォースの営業マン環境については、ちょっと引いてしまった。コンピュータならぬ、データに働かされる人間という印象。しかし属人的な評価を避け、定量的な評価であるとも言える。また徹底的にデータで社員を管理するいっぽう、優秀者への褒美は極めて人間的なもの。「テクノロジーは透明性を与え、それは信頼を生む。だが、魔法をかけるのはいまでも人間の仕事だ。」

ここでは営業活動のすべてが測定される。毎週決まった回数の電話をかけ、決まった数のミーティングをもち、与えられた見込み客に対して決まった金額の契約を毎月取り続けなければ鳴らない。営業マンは、目に見える基準によって評価される。ノルマの達成額と予定額の違い。効率性。契約件数。生産性。成約までに掛かる時間。見込み客の管理。その数、反応速度、そして会話時間。営業マンは、問い合わせから24時間以内に確実に返事をするよう監視されている。営業マンは常に見張られていることを自覚させられる。トイレに入っているときも、珈琲を飲みながら休憩しているときも、そのことは頭から離れない。


終章 ものを売る力と生きる力

「能力はあながたできることである。やる気はあなたが何をするかを決める。姿勢はどれだけ上手にそれができるかを決める」

万能である必要はなく、自分らしくあること、自分を信じることーというメッセージは力づけられる。

ころころと態度の変わる人間や、身振り手振りの芸当が染み付いたひとはほしくなかった。「ひどい訛りのセールスマンや、ちゃんとしたスーツを着ない人や、言葉を間違う営業マンもいますが、彼らは物語の達人です。彼らは自分の物語をお客様の問題に関連づけ、さまざまな職種や地域の経験を組み合わせることができるのです。彼らは経営者にワインの蘊蓄を語ることはできませんが、テクノロジーについてなら詳しく話すことができます」。

元AOK副会長のテッド・レオンシスは、僕がこの本で一つだけやるべきことがあるとしたr、あそれは営業という仕事にいくばくかの加賀谷クを取り戻すことだと言った。営業を下げず無用な人間は、誰もビジネスを行うべきではないと言った彼の言葉は正しい。

Vウォーターのサムとクリストファーのエピソード(pp. 360- 366)は、何度か読み直したい。


謝辞

本書を読むと、相手が個人であれ会社であれ、ビジネスの根底にあるのは、「他者を理解し、自分を理解してもらう」という相互理解であるということがよくわかる。しかし、たいていの場合は相手を理解する前に売ろうとし、かなり経験のある営業マンでも、自分を理解してもらうということまでは思い至らない。だからこそいつの時代においても営業という仕事の最初にして最大の壁は「断られること」なのだ。

営業の極意は「よく話を聴き、落ち込むことなく、わかりやすく説明する」だという。言うは易く、行うは難し。