ひとは死んだらどこへ行くの

童話「人魚姫」を読みました。

人魚姫人魚姫
清川 あさみ 金原 瑞人

リトル・モア 2007-06-26
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人魚の死

物語の中で、人魚は、死んだら海の泡になってしまうと教わります。一方、人間は、体が死んでしまっても、魂は不死で、永遠に生き続けるそうです。

「じゃあ、わたしも死んだら海を漂う泡になってしまうの? 二度と波の調べもきけなくなるの? かわい花も赤い夕日もみられなくなってしまうの? どんなにがんばっても、不死の魂はもらえない?」

「ひとは死ぬと、魂は澄みきった空気をどこまでも上へ上へ昇っていって、かがやく星々のところまでいくらしい。あたしたちが海から上がって、大地をながめるときのように、人間の魂は空まで昇って、みたこともないまぶしい世界にいくんだ。」

「人魚姫」は19世紀にデンマーク出身のアンデルセンによって書かれているので、キリスト教の考え方で描かれています。キリスト教において、死は「永遠の生命」のはじまりです。ですが、人魚は、それを手に入れられません。死んだら、泡になって消えるだけ。
この人魚の死生観は、あまり宗教を信じていない現代人に、受け入れやすいものではないでしょうか。


以前、友人と「人って、死んだらどうなるのかな」「神様とか天国とか信じられれば、もっと生きるのも楽なのかな」と話し合ったことがあります。でも、相手も私も神様を信じていなかったし、素直にひとつの宗教を信じられる性格でもありませんでした。キリスト教も仏教も、新興宗教も特に信じていないし、信じる気もないし。「死んだら、燃やされて灰になる。それだけだ。」「神様なんて信じられない。」という結論で、話を終えました。そして、しばらくして、友人は亡くなりました。
「彼は、どこに行ったのかな?」という疑問が頭に浮かび、堂々巡りをしてしまいました。「それだけだ。」と言い合ったのに…。そんなとき、買ったままにしておいたこの絵本を手に取り、ページをめくりました。ビーズやスパンコール、色とりどりの布をつかった絵が、美しく、物語を引き立てていました。*1

人魚姫
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物語の終盤に、人魚は生を終えることを悟ります。

ゆく手にはただ、思いも夢もない永遠の夜が待っている。
わたしには魂がないし、もうけっして手に入らない。

しかし実は、人魚が迎えるのは永遠の夜ではありませんでした。どうなるのかはここでは秘密。気になる人は久しぶり(?)に「人魚姫」を読んでみてください。

人間の死

物語では「永遠の夜」は悲しいこととして扱われていますが、私は、永遠の夜、永遠ではない魂も、悪くないと思います。

生きることや死ぬことについて、いろいろ考えて、ぐるぐる回って。でも、人は自分が死ぬまで、死というものの本当の感覚はわからないし、その後の行き先もわかりません。わかったところで、どうすることもできません。
なによりも、死んだら、燃やされて、灰になるだけです*2。復活を信じている宗教もあるようですが、私はそれを信じられません。一方で死を忌み嫌う人もいます。その心情に反対はできません。でも、人は誰でも、いつかは死にます。それは、ある意味での救済です。そして、救済が必要なときは、人によって異なります。だから、死に至るタイミングは人それぞれ。それで良いと、私は思います。
終わりがない苦痛より、空白の夜を望む人もいるのです。

*1:テキスタイル担当の清川あさみ嬢:http://www.asamikiyokawa.com/

*2:土葬より火葬のほうが衛生的なので、彼も私も火葬派でした。