やわらかな心をもつ

タイトルが大好きなので、そのまま使わせていただきます。

やわらかな心をもつ―ぼくたちふたりの運・鈍・根   新潮文庫

やわらかな心をもつ―ぼくたちふたりの運・鈍・根 新潮文庫

指揮者:小澤征爾と数学者:広中平祐の対談集。テーマは数学や音楽の話から、教育の話、気がつくと女性の話まで、あっちこっちに飛びまくり。だけど通奏低音のように、根底を流れる何かがあります。ふたりの根っこを感じます。

(病気で音楽学校に半年行けないでいたときのエピソード。テレビを見ると同級生が演奏会で活躍している。)
小澤:するとこっちはね、体がちゃんと戻るかどうかもわからないから、もうイライラしてくるじゃない。半年も体使ってないんだから、ほんとにイライラしちゃった。ずい分悩んだ。
(中略)
その時ぼくのおやじはね、要するにあれは人間のいちばんの敵だって言うの。今でもよく覚えているけど、ジェラシーっていうの、嫉妬心っていうのかね。それは人間にとっていちばん害になるっていうわけ。
で、ぼくはおやじに言われて結局わかって、得をしたのは、これはもう嫉妬心を殺さなきゃあとても生きていられないと思ったことなの。その時は殺せなかったと思うんだけどね、ほんとうには。でもその嫉妬心を殺す為に努力したことが、あとになってとってもいいことになった。

実は、この本は半年くらい前にいったん読了していました。最近友人から貰った小澤征爾の「ボクの音楽武者修行」を読んでいて、読み返したくなったので、電車の中でパラパラと眺めていたところ、この部分が目に留まりました。帰宅してネット散歩をしていたら、友人がid:pho:20070915:1189863043にて「超・美術館革命」から、次の一節を引用していて、あら(ちょっとした)奇遇と思ったので、以下、孫引きします。

(著者)十年で、大阪と金沢から、美術館って楽しいところだなというサインを送れたと思っています。ただ、日本全国的には、まだまだ。日本ってジェラシーの国だから。そこが問題ですよ。
村上隆)ジェラシーと、徹底的な鎖国主義、が日本人か。ジェラシーをどうやって突っぱねるのですか。
(著者)それに対しては一切応えない。もう我慢。我慢するにはどうしたらいいか。常に前を向く。絶対に前を向く。後ろを向かない。

「やわらかな心をもつ」は1977年刊、「超・美術館革命」は2007年刊。30年、時が隔たっても、むつかしいことは変わらないのだな・・・と、妙に腑に落ちました。



少なくても私にとっては、他人を気にしないのは難しいことです。自分がどこに居るのか、周りを見回して、相対的な立ち位置を把握することに、慣れすぎてしまっているので。ですが、次の部分を読むと、とっとと開き直るしかないのかなと、肩の荷が少し軽くなります。

(自分が手がけていた問題の糸口を見つけ、その解法についてセミナーをした。好評だった。が、その後行き詰まり、別の数学者に先を越されてしまったらしいという、電話を受けた。)
広中:一言だけ、ワイヤストラスの定理という昔からある或る定理を使ったらしい--と、こう言ったわけだ。その一言聞いただけでハッと胸をうたれてね。瞬間的にぜんぶその先がみえちゃった。受話器の前で飛び上がる程のショックだった。なんでそういうふうに考えなかったかね。その方法が最も自然で、最も常識にかなったアプローチなのよ。(中略)木の根っこへ坐って、しばらくボヤーッとしてね、おれはなんとばかに生まれたんだろうと。(笑)
キの根っこにしばらくボヤーッと坐ってて、そのうち、まあ、おれは生まれつきアホなんだから今さら慌ててもしようがないと思って。(笑)つまりその、あるとこまでできて、人にビューティフルだと言われたことが、大きなガンになってた。

広中先生の例を引き合いに出すまでもなく、一番の敵は自分自身ですし。開き直って、自信があるフリをして*1、自分ができることを精一杯するしかないのでしょうね。なにができるのか? を考えると、むぎゅうっとなりますが、それは、まあ、走りながら考えて行くといたしましょう。

超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦 (角川oneテーマ21)ボクの音楽武者修行 (新潮文庫)

*1:ここらへんがまだ開き直り切れていない?