心なんてない
胸のあたりにあるのは心臓と、せいぜい胃だけだ。
何かを思うのは頭だ、脳味噌だ。
心が重いなんてばかげたことを言うんじゃない。
と、隣のクラスの先生が話していたのを聞いたことがある。
10年前の記憶がぽこりと表出してくるのだから、人の脳というのは面白い。
小林秀雄の「無情という事」がすばらしい。文庫本中のたったの5ページが、こんなに含蓄深いなんて。
上手に思い出す事は難かしい。だが、それが、過去から未来に向って飴*1の様に延びた時間と言う蒼ざめた思想(僕にはそれは現代に於ける最大の妄想と思われるが)から逃れる唯一の本当に有効なやり方の様に思える。
無名の教師の言葉と、小林秀雄の抜き書きを並べるだなんて、見る人が見たら怒るのだろうか。だけども、無名だとか有名だとか、名前が残るとか残らないとか、そんな些末な事に捕われるのに、なんだか心が疲れてしまった。面白いものをただ「面白い」と、美しいものをただ「美しい」と楽しみたい。
- 作者: 小林秀雄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1961/05
- メディア: 文庫
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*1:本当は旧字