ルードウィヒ・B

手塚治虫の漫画をちゃんと読んだのは初めてだったかもしれない。ベートーヴェンの伝記物。作者の逝去により未完だが、文庫512ページと決して短くはない。また終わりも比較的キリが良いところで終わっているのが幸いだった。

ルードウィヒ・B (手塚治虫文庫全集 BT 86)
手塚 治虫
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印象に残った場面

少し長くなるし、マンガのセリフだけを取り上げても気の抜けたビールみたいなものだけれど、自分のために書き出しておく。

民主主義が広がる=貴族の時代が終わると音楽で食べられなくなるのではと心配する楽士の悩みと、フラットになった世界で仕事がなくなるのではないかと心配する現代の私の悩み、なんだか近しいなと思った。いつの時代も変化はあるもので、その変化のなか自分は暮らしを続けていくことができるのか?という悩みは時を超えて共通のことなのか。

また晩年の手塚治虫が若いベートーヴェンの口を通して「ぼくは他人にぜったいにまねられない個性で勝負してやる!」と言わせていることに戦慄した。お前が言うかと・・・。しかもこの場面の設定・ページから伝わっている熱からは「上から目線」みたいなものは全然感じられない、もがいている真っ最中の人間が自らの信じることを語っているだけ・・・という雰囲気なのだ。「ぜったいにまねられない個性」を持っている人間も別に天与の才能で食っているわけではなく、「自分を大事にして自分の個性を強く出してく」ように努力し続けている。今では知らぬ人はいないベートーヴェンの人生はそれは苦難に満ちたものだったし、マンガの神様として有名な手塚治虫の人生も決して万事順風満帆ではなかった・・・そういうことなんだろう。

(ウィーンまでの馬車で一緒になった宮廷楽団のオーボエ奏者とベートーヴェンの会話)
オーボエ奏者「我われ宮廷が件のお抱え楽士はどうなるんでしょうね。こう激しくフランス軍が攻めてきたんじゃあ王侯だってだんだん音楽どころじゃなくなりますからね」
ベートーヴェン「へっそりゃぁクズ楽士はゴマンといるさ。そんな連中は王侯貴族にお抱えになって食えてるけど、放り出されればやっていけないでしょう」
オ「ずいぶんキビシイこといいますね」
べ「自分を大事にして自分の個性を強く出してく者が結局強いんですよ。どこでも通用するんすよ」
オ「だけどそれができる天才はめったにいませんよね」
べ「いるさ!たとえば「トム」に描いてる星野之宣とか諸星大二郎みなもと太郎とか坂口尚とか倉田江美 こういうのが自分の個性で勝つんすよ」
オ「でもそれはマンガの話でしょう」
べ「マンガも音楽もおんなじだろ! ぼくは他人にぜったいまねられない個性で勝負してやる! ベートーヴェンの演奏はベートーヴェンにしかできない! そう世の中に教えてやるんだ!」

ベートーヴェンといえば

この映画、フィクションだけれども素敵だった。
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ドラマ「のだめ」の主題曲になったせいか、交響曲7番は日本での知名度がやたらと高い気がする・・・ということを考えたら「のだめ」を途中までしか読んでいないことに気付いて、全巻セットを大人買いしたい衝動にかられている。本は読めば読むほど他の本が読みたくなる。困った。
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