イェール大学の心理学入門(Introduction to Psychology)では、どんなことを学ぶの? 受講メモ公開

(本ポストは、noteの同名記事の転載です。はてな記法はやっぱり、文章構造化に便利…)

オンラインで学べるCourseraでイェール大学の心理学入門コースを修了しました。

sentenceの「書いたよチャンネル」にこのnoteを投稿したら、「学んだ内容、メモ書き程度でもいいので公開して!」と尊いコメントをいただいたので、復習がてら「こんなことやった、ここが面白かった」メモを作ってみました。振り返ってみて、めっちゃ色々学んでるじゃん!とビックリ。

どんなコースだったの? 全体を通しての感想

「心理学」という名のひろい国の中を旅しながら「このエリアは、こんなことをやっているんだよ」と紹介して回っていくようなコース。入門とはいえ、そこはイェール大学の心理学入門。ノートを書きつつビデオを見たり、読書課題を読んだりしていたら、6週間でとったノートは30ページほど、結構な分量になりました(注:私は書かないと覚えられない人間です)。

シラバス

  • Week 1 Welcome to Introduction to Psychology イントロ(心理学の歴史、研究設計、脳科学
  • Week 2 Development and Language(発達心理学言語心理学
  • Week 3 Cognition(認知、記憶)
  • Week 4 Self and others(自己と他者、感情、社会心理学
  • Week 5 Variation(差異、臨床心理学)
  • Week 6 The good life (幸福)

1週目 イントロ(心理学の歴史、研究設計、脳科学

心理学の歴史

ビデオなし・リーディングマテリアルのみ。構造主義(structuralism)、機能主義(functionalistm)、行動主義(behaviorism)、1960年代以降は認知の研究が進みコンピュターサイエンスにも影響を及ぼした、心理分析のフロイド、行動心理学のスキナー、等々、「聞き覚えあるかも」という話や単語が色々出てきた。

研究設計
  • データを収集して相関があるかを調べる「相関研究(correlational design)」
  • 条件を与えてどうなるかを調べる「実験研究(experiments design)」
  • 定性的研究(qualitative designs)ー心理分析のフロイドなど
  • 準実験研究(quasi-experimental design)
  • 縦断的研究(longitudinal studies)ー何年もかけて対象者を追う

などなど・・・

どの研究手法が良いのか?は、リソース(使える時間とお金)による!
倫理的制約にも注意!(戦争や大事件や虐待などの影響を考慮する、対象者への配慮)

脳科学

脳のどこがなんと呼ばれるか、どういう分野に使われるエリアなのかをさらっと。日本語でも覚えられない脳の構造を、英語でなんて……(遠い目)

2週目 Development and Language (発達心理学言語心理学

発達心理学

赤ん坊や子供を使った実験は、研究手法(methodology)が難しい。赤ん坊や子供は自分の思いを言語にすることができない、できてもまだ大人ほど十分にはできないから。

  • 随意反応を観察:無意識に出てしまう反応を観察する、
  • 不随意反応を観察:意識的な反応を観察する、記憶を思い出してもらう等
  • 精神物理的反応を観察:脳波など物理的なデータを計測

発達過程を調査するためには縦断的研究(longitudinal studies)が良いが、お金も時間もかかる調査手法のため、横断研究(cross-sectional studies)と組み合わせて並列比較(sequential research)にする(複数の年代グループを並列して観察し、調査年数を短縮する)等、工夫する。

対象者が赤ん坊や子供なので、調査同意を本人から取得することは難しいという倫理面での問題や、どうやって対象者をリクルートするか、年数を経るにつれて避けられない対象者の離脱をどうやって防ぐか等、発達心理学特有の研究の難しさがある。

3週目 Cognition(認知、記憶)

認知

AI分野の大学院生が、教授から「ロボットを開発するために、人がどうやって物事を認識しているか調べて」と、サマープロジェクト(夏の2〜3ヶ月で取り組む研究課題)として割り振られた。が、実はそれが超難しい・奥深い研究テーマだった……というエピソードが面白かった。

教授が何の気なしに「これくらい学生にやらせれば、ちょうどいいでしょ」と割り振った研究テーマ。それがのちに発展して、認知心理学になり、画像認識になり、ニューラルネットワークになり……と、花盛りになった。「たいしたことない」と思ってたテーマが、実は未来の世界を大きく変えるタネだった……というおはなし。「有望な研究に、選択と集中!」といっても、有望な研究を見極めるのは、専門家にとっても難しいのだ。

記憶

「なぜ覚えるのか?」「なぜ忘れるのか?」「なぜ記憶は間違うのか?」あたりの研究をあれこれ紹介。短期記憶の容量は「魔法の数字7+-2(magical number7+-2)」まで。チャンクをうまく使って、覚えたいことを5〜9チャンクにまとめるのが、効率よく覚えるコツ。

4週目 Self and others (自己と他者、感情、社会心理学

感情

人間は不合理な生き物!合理的に考えれば「こうしたほうがいい」とわかっていても、つい感情に従って行動してしまう……。囚人のジレンマ(prisoner’s dilemma)、最後通牒ゲーム(Ultimatum game)など、行動経済学っぽい話が多かった。

社会心理学

この分野は面白いよ!と教授自ら語るように、ひとつひとつの理論がトリビア感あふれていた。

・何かが起こった時に、その原因や「こういう人だから」「こういうモノだから」のような特性に対する推論をする。その過程を理論化したのが、帰属理論(Attribution theory)。
・人は慣れ親しんだものを好む。接する回数が多いと好感を抱くようになる「単純接触効果(mere exposure effect)」。
・条件に恵まれた人は、より優れた業績を上げることができる「マタイ効果(Matthew effect)」。
・第一印象は5秒で決まる。言霊効果の「自己達成的予言(self-fulfilling prophecy)」。
・何かをしてもらうと、お返しをしたくなる「返報性の原理(norm of reciprocity)」。

5週目 Variation(差異、臨床心理学)

差異:性別、生まれ、健康状態などなど、人間は様々な「違い」がある。その中で、「性格(personality)」「知能(intelligence)」の二点に絞って、どんな研究がされているかを紹介。

メンタリストDaiGoもよく話題に出す性格分析「ビッグファイブ」について詳しい解説を聞けて満足。IQテストの話もでた。IQは100が一番多くなる正規分布になるよう設計されている(偏差値などと同じ)…ということを初めて知った。


フリン効果(Flyn effect): 昔のひとより現代人のほうが、全体的にIQが高くなってる。そのいっぽう、1970年代以降は負のフリン効果(IQの低下)が観察されているという研究もある。

臨床心理学:

精神病の代表格である、統合失調症について詳しく解説。症状は2つに大別できる。

  • 健常なら「ない」はずのものが生じる陽性症状(positive symptoms):幻聴、幻覚、妄想など
  • 健常なら「ある」はずのものが無くなる陰性症状(netavie symptoms):無表情、活動低下など

みんな大好き!心理療法のはなしも。時代的には認知行動療法(CBT)がホット!だけど、上手なセラピストは1つの方法に縛られず、患者の症状に合わせて、複数の手法を組み合わせて対応する。ちなみに、フロイドの提唱した心理分析は、時間がかかる割に効果が科学的に立証されていないため、下火傾向。

6週目 The good life (ハピネス)

「幸せ」に関する研究のはなしあれこれ。印象的だったのは、
  • 「幸せ」は遺伝的要因も大きい
  • 良いことにも悪いことにも慣れるが、長時間通勤と騒音に「慣れ」はない
  • 「幸せ」は絶対的要因も相対的要因にも影響されるが、裕福な国に住む人はより「幸せ」な傾向にある
  • 喜びと痛みに関する体験は歪んで記憶されがち、終わりよければすべて良し (Ending matters!)
まとめ

たくさんの研究成果を学んできたが、心理学ではまだまだわからないことだらけ。しかし人間心理に関するあれこれは、これからも、反証可能な科学研究によって、どんどん解明されていくでしょう。それを悲観的に捉えるのではなく、「心」「精神」が科学的に明らかになればなるほど、我々の「心」の複雑さ、ユニークさ、面白さを受け止め、受け入れていくことができるのではないか…という結び。

6週間を終えて

このコースを修了して、とりあえず心理学の世界のざっくり地図は描けたかな…。今後は、「地図のこのあたりの話だな」と意識しつつ、関連書籍を読んでいきたい。

少し前から、りょんさんの「元心理学徒が本気で心理学の全体像とおすすめ書籍17冊を紹介する」リストにある本をぽつぽつ読んでいるので、夏までにこちらを一通り終えたい。今は「行動を起こし、持続する力」と「心理統計学の基礎」(これはリストにないけど、自分で気になった本)を読んでいる。