オープンサイエンス革命

原著の"Reinventing Discovery"が発売されたときから「いつか読もう」と思っていたが、気がついたら日本語翻訳が出ていた。ちなみに自分は勘違いしていたが、原書も日本語訳もCreative Commonsでの無料公開はされてはいない

その理由について、著者のニールセンは「本書では、原則として公的資金による支援を受けた科学研究はオープンサイエンスになるべきと議論している。本書は公的資金の支援も受けていないし、厳密には科学でもない(since the book argues as a broad principle that publicly funded science should be open science; the book is neither publicly funded nor, strictly speaking, science.)」と説明している。

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マイケル・ニールセン 高橋 洋
紀伊國屋書店 2013-03-28

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私にとってオープンサイエンスは興味があるし仕事でも関わりのある分野だが、本書では分野を問わずオープンサイエンスの試みとして行われているプロジェクトをいくつかピックアップして紹介していて、知らないものもいくつかあった。具体的なプロジェクトがどのように進んでいるかを考察するなかでオープンサイエンスが意味するところ、それによりどんな良いことが起こりうるのか、何がそれを阻害しているのか、なぜ著者はオープンサイエンスを必要なものだと思うのか…を語っている。

技術の発展に比べて社会の変化には時間がかかる…ということが身にしみて分かってきて、こういうふうに「右も左もどんどんオープンになるべき」というくらいの勢いで言い続けるひとがずっといれば、100年くらいでずいぶん変化するのかなと思っている。分野によっては自分が生きているあいだに完全に移行するのかもしれない。でも本書で指摘されているように、当の研究者たちにインセンティブがなければ物事はなかなか進まない。それは「誰でも見られるようにデータ公開しなければ次年度以降助成金がおりない」というような鞭かもしれないし、「データ公開すると業績として評価される」「報賞の対象になる」という飴かもしれない。でもあまり飴鞭(特に鞭)をこまごま導入すると、その管理のためのコストが生じるようになって、オープンにする利点が薄れてしまう。

いっぽう、最近はオープンアクセスで論文を公開することの利点難点がかなり目に見えるかたちになって現れてきている。オープンサイエンスも進めば進むほど「良いことばかりではなかった」という点が具体的に出てくるのだろう。オープンデータについては現在進行形で出てきている最中かもしれない。


章立てメモ

  • 第1章 発見を再び発明する
    • 第1部 集合知の有効活用
    • 第2部 オンラインツールは私たちを賢くする
    • 第3部 専門家の注意(attention)を効率良く誘導する
    • 第4部 オンラインコラボレーションの成功条件
    • 第5部 集合知の可能性と限界
  • 第2章 ネットワーク化された科学
    • 第6部 世界中の知を掘り起こす
    • 第7部 科学の民主化
    • 第8部 オープンサイエンスの課題
    • 第9部 オープンサイエンスの必要性
  • 補足 Polymath Projectによって解決された問題
    • DenseHales-Jewett Theorem
    • セメルディの定理
  • 推薦図書と関連情報